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【自己破産】破産管財人の否認権とはどんな権限か?

破産管財人の否認権とは?

法的整理である破産手続では、裁判所から選任される破産管財人が債務者の財産の換価回収を行いますが、そのなかで破産管財人に与えられている一風変わった権限が「否認権」です(破産法167条、173条)。

これがどのような権限なのか、どういった場合に発動され、どのような効果が生じるのかについて見ていきたいと思います。

否認権とは?

否認権を説明する前に、債務者の行為について考えてみましょう。

破産する前であれば、債務者は自由に自分の財産を処分することができますよね。任意整理などですと、特定の債権者だけに弁済するとか、資金を捻出するために資産を売却するとかいうことは自由におこなってかまわないことは、他の記事でも説明されている部分です。

しかし、裁判所に対して破産申立てをした場合に、その直前にそのような行為があったと判明したら、破産手続の大原則である債権者間の平等が保たれないことになってしまいます。

このため、破産管財人は、債務者が破産に瀕している状態であるにもかかわらず、①財産の総額を減少させたり(詐害行為)、②ある特定の債権者だけに債務を弁済したり(偏ぱ(頗)弁済)したことが判明した際に、これらの行為(あわせて「否認対象行為」と呼ぶことにします)をなかったことにすることができる、という権限を持っています。

この権限のことを、「否認権」といいます。

否認の対象となる行為とは?

債務者が①詐害行為や②偏ぱ弁済を行っていたときに、破産管財人は否認権を行使することができますが、否認対象行為とは具体的にはどのような行為を指すのでしょうか。

詐害行為とはどのような行為か?

まず、①詐害行為についてですが、これは4つの類型に分かれます。

1.財産を減らすような行為

1つめは、「財産減少行為」です(破産法160条1項)。

例えば、債務者が持っているピカピカの高級外車を1万円で売ってしまうとか、逆にボロボロの大衆車を300万円で買うとか、債務者が損をするような取引をして、債務者の財産を減らすような行為を指します。

ちょっと変わったところでは、離婚の際に過大な財産分与を行った、というような行為も含まれます。

2.債権者にお金を渡して借金をチャラにする行為

2つめは、「詐害的債務消滅行為」です(160条2項)。

債務を消滅させるために、債権者に対して過大な給付をする行為のことです。例えば、50万円を借り入れている債権者に対して、100万円相当の商品を渡すことで借金をチャラにするような行為を指します。

3.財産を隠すために財産を処分する行為

3つめは、ちょっと難しいですが「財産の隠匿等を容易にさせる、相当の対価を得てした財産の処分行為」です(161条)。

何のこっちゃという感じですが、不動産だとかの隠しにくい財産を、お金や高級品といったモノに変えて隠そうとする、と想像してみてください。

例えば、500万円の価値のある不動産を500万円で売却したとすると、これだけではプラマイゼロですが、これが財産隠しの意図で行われた場合には、否認の対象となります。

4.財産を人にあげる行為

4つめは、「無償行為」です(160条3項)。これはシンプルに贈与だとか権利放棄だとか、ちょっと変わったところでは他人の債務を負担するとかという行為を指します。

これを「財産減少行為」と分ける実益としては、無償行為にあたる場合には無条件で否認の対象となるという差があります。

偏ぱ弁済とはどのような行為か?

そして、②偏ぱ弁済については、債務者が支払不能に陥ったあとに、既存の債務に担保を提供したり、お金やモノで弁済したりする行為を指します(破産法162条)。

ここで「支払不能」というのは、財産、信用、労力や技能といった債務者のあらゆる能力を使っても債務を弁済できない(支払能力がない)状態をいいます。なので、いくら破産直前に弁済があったとしても、支払不能に陥っていない状態で、約定通りに弁済されたのであれば、偏ぱ弁済にはあたりません

多少難しいのは、財産があったとしても、それが金銭ではなく巨大な山とか謎のツボとかで換価が難しいときには支払能力がないといえますし、逆に財産がなかったとしても、仕事をしたり融資を受けたりといった労力や信用によってお金を作れる状態にあるのなら支払能力はあるといえる点です。

このため、支払能力とは、債務者が「もう返せない」とか「まだ返せる」とか考える意思で決まるのではなく、客観的な状態で決まるものとなります。

否認権はどうやって行使されるか?

破産手続が始まって、破産管財人が①詐害行為や②偏ぱ弁済を発見したとき、破産管財人は否認訴訟を提起したり、「否認の請求」という簡易迅速な制度を利用したりなどすることで、否認権を行使することができます(破産法173条1項)。

ただし、相手方に「否認権を行使するぞ」と言っただけで、法的手続を利用するまでもなくお金が戻ってきたり取引がなかったことになったりすることも往々にしてあります。

破産管財人が否認対象とおぼしき行為を発見したら、破産管財人はその事実を裁判所に対して疎明して(一応確からしいという推測が得られる程度の挙証をさします。「証明」より弱いニュアンスです)、否認の請求をします。

これを受けて裁判所は、行為の相手方からも事情を聴き、これが否認対象行為にあたるかどうかを判断します。そして、その行為が否認対象行為だと判断されると、相手方は破産管財人に対して、否認対象行為を原状に復すよう裁判所から命じられます。

相手方がその決定に不服がある場合は、異議の訴えを起こすことができますので、破産管財人として「これは揉めそうだ」と判断した場合には、否認の請求ではなく初めから否認訴訟を提起して、判決を取ったり和解に至ったりすることもあります。

否認が認められた場合の効果は?

否認の請求または訴訟によって否認が認められると、相手方は破産者の財産を原状に戻す義務が生じます(破産法167条1項)。これが金銭のやりとりであれば、単にお金を返すだけですが、もしこれがモノのやりとりだった場合には少し事情が変わります

まず、破産管財人としては、モノを返してもらっても困る、というケースがあります。例えば、50万円の除雪機を10万円で売った行為について否認が認められれば、相手方は除雪機を返して、破産管財人は10万円を返して、ハイ元どおり、となります(財産が乏しくて10万円が払えないこともあります)。

しかし、否認が認められるまでに時間が掛かって季節がすっかり夏になってしまったら、破産管財人が除雪機を返してもらったとしても、時期外れの中古の除雪機を50万円で売るのはまず不可能ですよね。

また、相手方がモノを処分してしまった、つまり、除雪機を第三者に売ってしまったとか、使っていたら壊れたので捨ててしまったとかいうことだってありえます。

そのため、破産管財人としては、モノの返還にかえて、価額を償還するよう請求することができることとなっています(「詐害的債務消滅行為」の場合を除きます)。50万円の除雪機を10万円で売ったのなら、モノとお金を元に戻すのではなく、相手方から差額の40万円を受け取ることができる、というわけです。

なお、「無償行為」の相手方が、当時債務者に支払停止や破産申立てがあったと知らなかった場合には、価額償還の範囲は「現存利益」の部分だけになります(167条3項)。要は、無償でもらった財産を全部または一部使ってしまったのであれば、残っている分だけ返せばいいということです。破産すると知らないでもらったのに、あとから全部返せというのは酷だからです。

免責が得られない可能性も

ここまで、否認対象行為と否認権の効果などについてみてきましたが、否認対象行為には、実はもうひとつ、破産手続に重大な影響を与える点があります。

破産手続では、換価回収などの作業と並行して、債務者について免責(債務をチャラにする)かどうかが審理され、債務者に免責不許可事由があった場合には、免責が認められないことがあります。

実は、この免責不許可事由のなかには、「債権者を害する目的で行う不当な財産減少行為」とか「不当な偏ぱ弁済」とかといった、否認対象行為が含まれています。特に、偏ぱ弁済については、債権者の平等を害するという点から、免責不許可事由としては代表的なものとなっています。

ですので、否認対象行為があると、破産手続中で原状回復されたからそれでオッケー、とはならない場合があることに留意しなければなりません。

免責の審理においては、債務者がいかに誠実に破産手続に協力したかという点も大きな判断要素となるので、逆転満塁ホームランの可能性もなきにしもあらずですが、破産手続を予定しているのであれば、否認対象行為は厳に慎むべきだといえます。

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